こんにちは、響です!
モーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ(Il dissoluto punito, ossia il Don Giovanni)》は、
“欲望と良心”、そして“罪と救済”を描いた、まさに人間の深淵をのぞくオペラです。
快楽を追い求める男、ドン・ジョヴァンニ。
彼に惹かれ、怒り、嘆く女たち。
そして、正義の名のもとに彼を追いつめる人々。
それぞれの思いが、モーツァルトの音楽によって
光と影のようにぶつかり、絡み合いながらひとつの物語を紡いでいきます。
このオペラには、笑いと恐怖、愛と裏切り、理性と狂気──
あらゆる“人間の二面性”が息づいています。
ここでは、《ドン・ジョヴァンニ》を彩る5つのアリアを通して、
モーツァルトが音楽で描いた“罪と赦しのドラマ”をたどっていきましょう。
《ドン・ジョヴァンニ》これだけは覚えておいてね
《ドン・ジョヴァンニ》の基本情報ともいえるものをまとめてみました。
この作品は、モーツァルトと台本作家ロレンツォ・ダ・ポンテが手がけた「三部作」のひとつ。
《フィガロの結婚》《コジ・ファン・トゥッテ》と並び、
18世紀の社会風刺と人間心理を最も鮮やかに描き出した名作です。
基本情報
項目 | 情報 |
---|---|
原題 | Il dissoluto punito, ossia il Don Giovanni(K.527) |
作曲 | Wolfgang Amadeus Mozart |
台本 | Lorenzo Da Ponte |
形式 | 2幕(序曲が付随) |
編成 | 歌手+合唱+オーケストラ |
主要登場人物と音域

それでは、《ドン・ジョヴァンニ》の世界を彩る5つのアリアを通して、
“罪と救いのドラマ”をたどっていきましょう。
第1章 《カタログの歌》──笑いの仮面をかぶる現実
《カタログの歌(Madamina, il catalogo è questo)》は、
第1幕でレポレッロが歌う有名なアリア。
主人の放蕩ぶりを数え上げるこの曲は、
一見コミカルでありながら、人間の欲望と虚しさを風刺しています。
聴きどころ
軽妙なリズムの中に漂う、どこか哀しげな旋律。
モーツァルト特有の「笑いながら泣かせる音楽」がここにあります。
第2章 《お手をどうぞ》──甘い誘惑の二重唱
《お手をどうぞ(Là ci darem la mano)》は、
第1幕でドン・ジョヴァンニがツェルリーナを誘惑する場面の二重唱です。
優しいメロディの裏に潜む、危うい駆け引き。
この一曲に、ジョヴァンニという男の“罪の美学”が凝縮されています。
聴きどころ
甘く溶けるような旋律の中に潜む緊張。
“誘う音楽”とはまさにこのことです。
第3章 《復讐の誓い》──ドンナ・アンナの決意
《復讐の誓い(Or sai chi l’onore)》は、
第1幕で父を殺されたドンナ・アンナが歌うアリア。
彼女の痛みと誇りが、劇中で最も力強いトーンで響きます。
聴きどころ
オーケストラの緊迫した和声と、アンナの決然とした声の対比。
“正義”という名の激情が、ここでは美しくも恐ろしい。
第4章 《彼女の平和を願う》──ドン・オッターヴィオの静かな祈り
《彼女の平和を願う(Dalla sua pace)》は、
第2幕でドン・オッターヴィオが歌うアリアです。
愛するアンナの心安らぐことをただ願う──
その静かな献身が、オペラ全体の中で唯一の“安らぎ”をもたらします。
聴きどころ
穏やかな旋律と長いフレーズが、モーツァルトらしい誠実さを伝えます。
第5章 《私を裏切った人》──ドンナ・エルヴィーラの激情
《私を裏切った人(Ah, chi mi dice mai)》は、
第1幕で歌われるドンナ・エルヴィーラのアリア。
裏切られた女の怒りと哀しみ。
それでもなお、ジョヴァンニを愛してしまう彼女の矛盾。
このアリアこそ、人間の感情の複雑さそのものです。
聴きどころ
力強いリズムと劇的な展開。
モーツァルトの“激情の書法”が存分に発揮された名曲です。
よくある質問 — FAQ
- Q《ドン・ジョヴァンニ》はどんな物語?
- A
《フィガロの結婚》《コジ・ファン・トゥッテ》と並ぶダ・ポンテ三部作の一つです。
放蕩者ドン・ジョヴァンニが女性を誘惑し続け、ついに天罰を受ける物語。
「自由」と「罰」という哲学的テーマを持つ作品です。
- Qどのアリアから聴けばいい?
- A
《お手をどうぞ》で世界観を感じ、
《彼女の平和を願う》で静かな美しさを、
《私を裏切った人》で人間の複雑さを味わいましょう。
- Q恐ろしい場面もあると聞きましたが?
- A
終盤の“石像の場面”では、騎士長が復讐のために現れます。
それはまさに「罪と死の対話」。
圧倒的な音楽的クライマックスです。
- Q初心者でも楽しめますか?
- A
はい。笑いと悲劇が入り混じる人間ドラマなので、
物語を追うだけでも十分に楽しめます。
闇に差す光 ― モーツァルトが描いた“人間の赦し” ―
《ドン・ジョヴァンニ》は、
欲望と傲慢に満ちた男の破滅を描きながら、
その奥で「人間は何に救われるのか」を問いかけます。
作品の最後に現れるのは、騎士団長の石像。
「悔い改めよ」という言葉に頷かないドン・ジョヴァンニは、
炎の中へと引きずり込まれます。
たしかに、この場面は恐ろしい。
でも、この“裁き”があるからこそ、
モーツァルトは人間の自由と赦しの意味を、より深く響かせることができたのだと思います。
ドンナ・エルヴィーラの赦し、
ドン・オッターヴィオの誠実、
ドンナ・アンナの正義──
それらがぶつかり合いながらも、
最後に残るのは“愛という余韻”です。
モーツァルトは決して説教をしません。
ただ、音楽によって人間の弱さと尊さを静かに見つめています。
罪を憎んでも、人を憎まない。
それが、モーツァルトの優しさなんでしょうね。

人の心に潜む光と闇を、
あれほど美しく音にできた人は、彼しかいないと思います。
実はこの《ドン・ジョヴァンニ》には、
モーツァルト自身のユーモアもさりげなく織り込まれています。
第2幕では、《フィガロの結婚》の名アリア《もう飛ぶまいぞ、この蝶々》が引用され、
舞台の空気がふっと軽くなる瞬間があります。
あの場面には、モーツァルトらしい“遊び心と自嘲”が潜んでいる気がします。

結局、音楽って“歌うように奏でる”ことなんですよね♪
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
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